かつては、奥歯の詰め物や被せ物といえば「銀歯」が一般的でした。
保険診療の中で機能を回復するという目的を果たすために、費用負担を抑えつつ、噛む力に耐えうる素材として金属が選ばれていたのです。
ところが、近年の制度改定や技術の進歩により、保険診療でも白い詰め物や被せ物を選べる機会が増えてきました。
見た目の自然さを保ちつつ、必要な機能を満たす治療が、より多くの方にとって身近になりつつあります。
ただ、選択肢が広がった今だからこそ、「見た目が白いから安心」「保険内だから十分」と一括りにせず、素材それぞれの特性や適性を理解して選ぶことが大切です。
ここではいつも保険の治療を選択されている方が、本当に歯に大切なことは何なのか?について考えるきっかけを作っていただければと思います。
Contents
なぜ銀歯は使われなくなったのか?
一昔前まで、保険診療で奥歯を治療するとなると、ほとんどのケースで「銀歯(パラジウム合金)」が選ばれていました。
強い咬む力に耐えられ、加工がしやすく、費用負担を抑えて機能回復を図れる素材として、長年にわたり多くの患者さんに使用されてきた実績があります。
ただ、時代の変化とともに、治療に求められる価値観も少しずつ変わってきました。
口元の見た目に対する意識が高まり、「目立ちにくい治療をしたい」「治療跡がわからないようにしたい」と希望される方が増えてきたのです。
また、素材そのものの性質に起因する課題も明らかになってきました。
たとえば、銀歯には金属アレルギーのリスクがあり、長期使用によって金属成分が歯ぐきに沈着し、黒ずみの原因となることもあります。
さらに、金属と歯との間にわずかなすき間ができやすく、時間が経つとその部分から虫歯が再発することもあるため、あくまで「一定期間、しっかり噛めるようにする」ことに重きを置いた治療だったとも言えます。
これは、保険診療の制度そのものがすべての方に最低限の機能を公平に提供することを目的としているためです。そうした前提を踏まえれば、銀歯が選ばれていた背景にも納得がいきます。
ただし今は、見た目の面だけでなく、素材の種類や治療の持続性を重視したいという方も増えており、
「保険の中でも白い素材が選べるようになった今、その選択肢はどれだけ安心できるものなのか?」という新たな視点が求められるようになっています。
保険で選べる「白い歯」の特徴と注意点
現在では、奥歯の治療でも条件を満たせば、保険診療で白い被せ物や詰め物を選べるようになっています。代表的な素材には、CAD/CAM冠やレジン系の修復材料があり、銀歯と比べて目立ちにくく、見た目の面でも満足される方が増えています。
CAD/CAM冠(キャドカム冠)
CAD/CAM冠は、レジン(樹脂)とセラミックの中間のような素材を専用の機械で削り出して作られる被せ物です。ある程度の強度と審美性を両立でき、小臼歯や、条件を満たした大臼歯などに適応されます。
ただし、完全なセラミックではないため、長年の使用で摩耗や色の変化が生じることがあるほか、咬む力が特に強い方では欠ける可能性もあるため、適応には慎重な判断が必要です。
レジン系の詰め物(コンポジットレジン)
コンポジットレジンは、いわゆる「歯科用のプラスチック」のような素材で、虫歯を削ったあとにその場で詰めて硬化させる治療に使われます。処置が比較的シンプルで済み、小さな虫歯や、歯の表面の浅い部分の修復に適しています。
一方で、プラスチック素材の特性上、時間の経過とともに変色しやすく、欠けたり摩耗したりすることもあるため、広範囲の修復や強い力がかかる場所には向かないことがあります。
このように、保険で使える白い素材にもそれぞれの特徴があり、すべてが万能というわけではありません。歯の状態や使用する部位に応じて、素材の性質を理解した上で選択することが大切です。
次は、保険外で使用される素材について、どのような特性があるのかをご紹介します。
自費の素材は何が違うの?見た目以上に大切なこと
保険診療で選べる素材が増えてきた現在でも、「できるだけ長くもたせたい」「見た目だけでなく耐久性や安心感も重視したい」といった理由から、自費の素材を選ばれる方も少なくありません。
ここでは代表的な自費素材であるセラミック、ジルコニア、ゴールドについて、それぞれの特性と使い分けの考え方をご紹介します。
セラミック|見た目が自然で、前歯や厚みが確保できる部位に適した素材

セラミックは、天然歯のような透明感や自然な色調があり、見た目の美しさを重視したい方に多く選ばれる素材です。
表面がなめらかで汚れがつきにくく、変色にも強いため、審美性と清潔感の両面で優れています。
ただし、ある程度の厚みがないと割れやすい性質があるため、歯を削る量が十分に確保できない症例には不向きです。
たとえば、神経を残している歯(生活歯)では削る量を抑える必要があるため、薄くなった部分にセラミックを使うと破折のリスクが高まります。
そのため、厚みを確保できる奥歯の被せ物や、前歯の審美性を重視した治療などでの使用に適しています。
ジルコニア|高い強度で、咬合力がかかる奥歯に適した素材

ジルコニアは非常に硬く、耐久性の高い素材で、咬む力が強くかかる大臼歯などの治療に適しています。
金属を含まず、白くて光沢のある見た目も特徴で、機能性と審美性のバランスをとりたい方に選ばれています。
高い強度によって破折リスクが少なく、長期間安定して使える素材ですが、非常に硬いため対合歯(咬み合う歯)にダメージを与える可能性がある点には注意が必要です。
また、内部が透けにくい性質を持っているため、前歯などで自然な透明感を求める場合は、他の素材の方が適しているケースもあります。
ゴールド(金合金)|高い適合性としなやかさで、歯を長く守る素材

ゴールド(金合金)は、歯科用金属の中でも特に加工性が高く、歯とのフィット感(適合性)に優れている素材です。ほどよい柔らかさと弾性があるため、咬んだときの力をうまく分散し、割れたり欠けたりしにくいという特徴があります。
特に、神経を残している歯(生活歯)で、削る量をできるだけ抑えたい場合には、ゴールドのしなやかさが適しており、セラミックよりも破折のリスクを抑えることができます。
色味は金属的で目立つことがありますが、奥歯など目立たない部分では機能性を最優先したい方に選ばれることが多く、金属アレルギーのリスクも比較的低い素材です。
ただし、素材そのものが高価であるため、ほかの自費素材と比べても費用が高くなる傾向があるという点は、選択の際に考慮が必要です。
当院の考える「根本的な治療」とは?
私たちが治療で大切にしているのは、その場しのぎではなく、できるだけ再治療にならない治療を提供することです。
詰め物や被せ物は、一度入れたら終わりというものではなく、素材や適合状態、咬み合わせとの相性によって、数年後にやり直しが必要になることもあります。
再治療を重ねるたびに歯は削られ、最終的には神経を失ったり、抜歯につながることも珍しくありません。
だからこそ、当院では治療の際に「どの素材がその歯にとって最も良い選択か?」という視点を欠かしません。見た目や費用のことももちろん大切ですが、今だけでなく、5年後・10年後を見据えた判断を一緒に考えることが、歯を長く守るためには不可欠だと考えています。
ただし、患者さんによってライフスタイルやご希望もありますので、保険・自費にかかわらず、ご希望に沿った選択を一緒に見つけていくスタンスを大切にしています。
見た目だけでなく、歯を守る視点で素材を選びましょう
詰め物や被せ物の素材を選ぶ場面では、どうしても「白くて目立たないかどうか」や「保険が使えるかどうか」といった条件に目がいきがちです。
もちろん、それらも大切な要素なのですが、歯をできるだけ長く健康に保つという視点で考えると、素材選びはもっと奥深いものになります。素材によって耐久性やフィット感が異なり、歯の削る量や噛み合わせとの相性など、さまざまな要因が影響するからです。
だからこそ、見た目や費用だけで判断するのではなく、歯の未来を見据えた素材選びをしてほしいと私たちは考えています。ご自身の歯にどんな選択肢があるのか、気になることがあれば、ぜひお気軽にご相談ください。
北村英二 院長について
「歯医者は怖い!」―子どもの頃、私もそう思っていました。説明もなく痛い治療はトラウマでした。だからこそ、北村総合歯科では、患者様の不安に寄り添い、丁寧な説明と痛みの少ない治療を大切にしています。
日本大学松戸歯学部卒業後、様々な歯科医院での経験を経て2021年に開業。インプラント治療はもちろん、虫歯や歯周病、予防歯科まで幅広く対応し、地域の皆様の歯の健康をサポート。「ここに来てよかった!」と思っていただけるよう、笑顔でお待ちしています。お気軽にご相談ください。
